●利根川を越えると、そこには何もない
千葉県と茨城県は利根川を境にして接しているのだが、茨城県民が千葉県に来たとしても、千葉県民は決して茨城県に行くことはない。千葉県民が茨城県に行かない理由、それは、
「茨城県には何もないから」。
茨城県には何もない以上、行く必要性はない。だから行かない。こういう理路整然とした物があるので。それで利根川が自然の境界線として役立ち、千葉県民が茨城県の領域に入らないようにしているのである。
しかし今回、我が家の葬式を手伝って貰った葬儀会社「ライフランド」が「会員謝恩日帰りバス旅行」を企画し、うちの母親がこれに応募すると、見事当選してしまった。なんでも四千通もの応募があり、40名が当選という、100分の1の確率であったらしい。
当選すると、1名だけ同伴者を連れて行く事が出来、3千円を支払うと行く事が出来る。そこで俺が母親と一緒に行く羽目になってしまい、この旅行に参加にすることになってしまった。そしてその行き先はなんと、
「茨城県」!
ライフランドは千葉市に本社を置きながら、千葉県と茨城県の関係をよくご存じなく、千葉県内で旅行すればいい物を、敢えて千葉県民たちにとって未知の領域である茨城県を選んでしまったのである。
●茨城県の三大お勧めポイントが~
実を言いますと、俺が母親と二人っきりで旅行するのは、なんと人生初なのであって、それなりに今回の旅行は楽しくしようと考えていたのだが、当日、観光バスに乗ってバスガイドの茨城県の説明を聞いていると、唖然としてしまった。
茨城県といえば、真っ先に思い浮かぶのが「納豆」! バスガイドは納豆の中でも「天狗納豆」なる物が最高級品と説明していた、事実、茨城県のパーキングエリアではその納豆が売っていた。しかしその値段は、
なんと800円以上!
「誰が食うか!」
普通なら200円出せば買えるような量で800円以上である。普通の納豆と違うのは、藁に包んであるだけ。それで4倍以上の値段を付けるのは、商売的に無理があると思う。
次に自慢する物が「筑波山」で、筑波山は『万葉集』にも歌われ、古代ではここで大規模な歌垣が行われ、単体峰であるので、「西の富士山、東の筑波山」と言われたという。だが筑波山の標高はなんと、
877m
「ちっちぇ~」
そんな低い山なのに、富士山に対抗するなって! 富士山は日本一の山なのだから、そうしておけばいい物を、それなのに富士山と比較するからこそ、変なことになってしまうのである。
第三番目に自慢するのが「霞ヶ浦」で、霞ケ浦は日本三大湖の1つで、昔は京の都から霞ケ浦の水でお茶を点てるためだめにやってきた茶人もいたという。それほど霞ケ浦の水は綺麗だったのである。ところが、
「現在では、生活排水のために霞ヶ浦が汚染され、青藻が大量発生して飲料水としては適さなくなってしまった」
それだけでなく、
「霞ヶ浦では鯉を養殖していたのだが、鯉ヘルペスが流行し、それで鯉が全滅してしまい、鯉養殖業者たちは事実上全員が廃業することになった」
こうなってくると最早、観光気分ではなく、なぜ茨城県民は生活排水を綺麗にすべく、合成洗剤を使用しないようにするとか、条例で制定しないのかという事を考えてしまった。
因みに霞ケ浦は本来「香澄ヶ浦」と呼ばれていたのであって、圧倒的に霞ケ浦よりも香澄ヶ浦の方がいい。香澄ヶ浦を霞ヶ浦と変えたしまった所に、現在の霞ケ浦の汚染があるのだ。
●袋田の瀧
今回のバス旅行のメインは、茨城県大子町にある「袋田の瀧」である。この瀧は日本三大名瀑の1つであり、高さ120m、幅73mで、4段に落下する瀧なので、実に見応えがある。どんなに高い瀧でも、段がないと単調な瀧になってしまうのだが、4弾もあるといろんな所から見れて、様々な顔を見せることになる。
茨城県と栃木県に洪水を齎した長雨で水量が物凄い事になっており、実にラッキーな事に成ってしまった。この瀧を雨天の時に見たり、乾燥して水量が減った時に見たりしたら、そんなに感動できなかったかもしれない。
実物は実に感動物で、現地に行って、実際に見る価値があると思う。周辺にはハイキングコースがあるので、1日中遊ぶ事ができる。しかしバス旅行ゆえに、滞在時間は1時間しかなく、この点が非常に惜しかった。
冬になると、袋田の瀧は氷結するそうだが、氷結すれば全く違った姿になるので、袋田の瀧を気に行ったのなら、もう一度、冬に行く必要性がある。何度見ても味わえる瀧というのは、そんなに多くないものなのだ。
袋田の瀧周辺には「ミヤマスカシユリ」なる、ここにしか存在しない百合が存在しており、偶然にもその百合を見つけてしまった。他の人たちはただ滝を見て帰ってしまうので、この百合の事を知っているか否かで、その感動も随分と変わって来るものなのである。
●豊年万作のアップルパイが~
袋田の瀧に行く前に、バスガイドが、
「豊年満作のアップルパイが実に美味しいと、先輩のバスガイドから教えて貰いました」
と言っていたので、滝を見終わった後に、わざわざその店に行った。掘立小屋のような所で売っていると聞いていたのだが、そこに行ってみると、
「館内で販売しております」
との表示があり、それで館内に行ってみると、
「今日は売っていない」
との事だった。バス旅行の参加者たちがこの事でバスガイドに苦情を言うと、バスガイドは慌てて豊年満作の所に事実を確かめにいった。すると、豊年万作はそもそも昨日の段階から作っていなかったらしい。だからマジで、
「そんな~」
という気分になってしまった。バス旅行が来る事は事前に知っているのだから、作っておけよ。売れよ。アップルパイを売り物にしておきながら、それを売らないとは、有り得ない商法である。
この豊年万作は滝味の宿として旅館の方が本業なのだが、この旅館の外観がどうも美的センスがないのだ。夜間にライトアップされると美しく見えるみたいなのだが、旅館に行けば夜中は室内にいる以上、こういう考えはそもそもおかしい。
豊年万作の事を弁護しておくと、館内はそれなりに豪華な作りになっている。だったら高級旅館としてやるべきであって、掘立小屋を作ってアップパイなど売るべきではないのだ。豊年満作がアップルパイを売らないのは、意図的な物だろう。いずれは売らなくなると思う。
俺たちは出発時間が早かったので朝食抜きだったために、俺は母親にこのアップルパイを食べさせてあげようとしたら、この有様である。母親は腹いせに、
「ここのアップルパイ、実は不味いんじゃないの」
と言い出す始末。それに対して俺は、
「食ってねぇ~だろ~が!」
と反論する始末。
それで仕方なく空腹のまま袋田の瀧を後にすることになってしまった。