●繁栄の中の滅亡論
アメリカ合衆国は現在、覇権国家として繁栄を謳歌している。まさに繁栄の絶頂期であるといっていいだろう。アメリカ合衆国の国民は誰もがこの繁栄がいつまでも続けば良いと思っている。しかしこの世は諸行無常なのであって、如何なる覇権国家であっても、いずれは衰退し、滅亡して行くことになるのだ。
普通の市民が
「アメリカ合衆国はいずれ滅亡する」
などと言おうものなら、周囲の人たちから凹凹にされる。或いは席を立って話を聞いてくれないという態度を取る。普通の市民のレベルで真実を言うと、まず受け入れて貰えないものなのである。
だからこそ知識人たちが真実を言わねばならないのであって、
「アメリカ政府のように無闇に戦争をやりまくっていると、アメリカ合衆国は確実に滅亡してしまう」
「アメリカの経済は世界で断トツに二酸化炭素の排出量が多いのであって、このままでは地球温暖化が進み、アメリカ全土で異常気象に見舞われてしまい、アメリカ人自身がアメリカ合衆国に住めなくなる」
「アメリカの文化は先進国の中でも低俗なものなのであって、このような文化を展開していたら国民は必ず愚民になってしまい、覇権国家を維持できる人材がいなくなってしまう」
とかいうことを普通の市民たちを敵に回してでも言わなければならないのだ。
今回紹介するのはこの本!
レベッカ・コスタ著『文明はなぜ崩壊するのか?』(原書房)
覇権国家に於いて滅亡論が出て来るということは、その覇権国家はまだまだ健全だということである。覇権国家に於いて滅亡論が出て来なくなると、その覇権国家はいずれ本当に滅亡することになる。滅亡論というのはそういう役割を果たしているのであって、国家を維持したいのなら、絶対に出て来て貰わねば困るのである。
この著者の父親はCIAの秘密工作員で、普通のアメリカ人の作家たちとは明らかに文章の書き方が違う。この著者はアメリカ国内に出回る情報を鵜呑みにはしていないのだ。しっかりと物を考えながら、この本を執筆したのである。しかもこの著者は日本の東京で生まれたので、彼女の文章は日本人には非常に理解し易いのだ。
●複雑さと滅亡
この著者は「文明滅亡の原因は複雑さにある」と主張する。何事も物事は単純から複雑へと発展していくのであって、複雑になればなるほどエネルギーを消耗していくから、結局、文明を滅亡させてしまうことになるのだ。しかし文明は複雑にならないと生き残ることができないからこそ複雑になっていくのであって、だからこの複雑化をどう処理していくかが問題になるのだ。
国家は常に何かしらの問題を抱えるものだ。だったらその問題を1つ1つ解決させていけばいいのである。国家がそういう努力をしないで問題を放置してしまったからこそ、問題が複雑化し、更には他の問題も絡まってきて、ちょっとやそっとのことでは解決できなくなり、或る日突然の国家が滅亡してしまうことになるのだ。
滅亡の前には明らかに滅亡を予感させる兆候が出て来る。まず1つ目は「停滞」である。国家が複雑で大きな問題に直面し、それが滅亡を招くと知りながら問題を解決できない、或いは把握できない時に滅亡は起こる。国家というものは絶対に停滞させてはならないのである。停滞でも繁栄を維持できるが、それは非常に危険なことなのである。
兆候の2つ目は「知識と事実が思い込みに摺り変えられる」ということなのである。複雑な問題は今までの知識では処理できないのである。まずは事実を正しく認識し、その複雑な問題を解決できる新しい知識を得なければならないのだ。それなのに人は今までの遣り方を踏襲してしまうのであって、こうなると科学は消えてしまい、思い込みしか残らなくなってしまうのだ。
この停滞と思い込みの2つが出て来ると、複雑な問題は益々複雑化し、国民はその問題を処理することができなくなり、自分たちの世代で解決しようとせず、次世代に先送りしようとする。その間には状況は悪化に一途を辿り、もう誰にもその問題を解決できないほど、問題は巨大化してしまうことになるのだ。
●5つのスーパーミーム
文明の滅亡に関して1つの仮説となるのが「スーパーミーム」という仮説である。ミームとは人々の間に広く受け入れられている「情報」「思考」「感情」「行動」のことだが、スーパーミームとはその国民バージョンといった所である。このスーパーミームが人々を滅亡に向かって走らせてしまうのである。
①反対という名の思考停止
文明が発展して来ると、なんでも反対を言い出す連中が必ず出て来る。この反対意見が通ってしまうと、解決できる問題を先送りしてしまい、その問題を余計に悪化させてしまうのである。しかも反対意見は閃きを押さえこんでしまい、人々は思考停止に陥ってしまうのである。
②個人への責任転嫁
文明が行き詰まる時、国家のシステムに何らかの問題があるからこそ問題が発生するものである。それなのに人々は個人に責任転嫁してしまい、肝腎のシステムの問題を見ようとしなくなるのだ。人間は自分の行動に対して自己責任を負うべきだし、幸せになりたいのなら自助努力をし続けるべきである。しかしその自助努力が責任のなすりつけになってはならないのだ。
③関係のこじつけ
複雑な問題はその原因が複雑なのに、人々は無理矢理に関係をこじつけ、表面的な解決策を持ち出そうとする。この関係のこじつけは一見論理的に成立しそうなのであるが、良く考えてみれば絶対に成立しないものなのである。関係のこじつけは政策を迷走させ、政治が持っている政治エネルギーを大漁浪費してしまうのである。
④サイロ思考
サイロ思考とは思考や行動を細分化することで、情報の共有や協力ができなくなってしまうことだ。問題があるからといって無闇に新しい組織を作るというのは、それが最善の解決のように思えるが、実はそうではないのだ。既存の組織を使って解決できることだって多々あるものなのである。
⑤行き過ぎた経済偏重
問題を悪化させ易い決定打は行き過ぎた経済偏重である。経済を重視する余りにバランスを崩してしまい、経済的には豊かになっているのに、文明の基盤を切り崩してしまうのだ。例えば国内の経済が安全に機能させるためには、「国防」「外交」「諜報」が必要であって、経済のために国防や外交や諜報を軽視してしまえば、後日、必ず国家滅亡という事態を招いてしまうのだ。
●合理主義と非合理主義
国家が生き残るためには合理主義に徹しなければならない。これ以外に答えはないというほど、合理主義に徹することは絶対に必要なのである。それなのに人々は合理主義を取り続けることができず、「合理的な非合理主義」に走ってしまうのである。
国家が繁栄したということは、その国民の多くが合理主義を取ったからである。しかし繁栄してしまうと社会は当初想定していた時よりも遥かに複雑化してしまい、人々は合理主義を取り続けることができなくなり、それとは打って代わって非合理主義を取ってしまうようになるのだ。
繁栄した国家というのは複雑化していくのだから、だからリストラを行うことが必要になってくるのだ。組織を大きくするのではなく、組織を小さくしておけば機能的に動くことができるので、非合理主義に陥って行くことがなくなるのだ。
それとは正反対に個人レベルで脳を鍛えることも必要になってくる。複雑化した社会の中で生きていれば脳の機能は低下してくるのであって、脳を鍛えることで複雑化した社会の中でも合理主義を取り続けることができるようにならなければならないのだ。
人間には必ず限界がある。だから一人で決断を下さないことだ、数人が集まって議論し合えば、最善の答えが見つかるものなのである。複雑な問題を解決するには4人以上10人未満がベストなのである。政府であろうが、企業であろうが、大学や学校であろうが、執行部はこの人数の中に収めるべきなのである。
●先送りの連続、そして何もしないこと
繁栄している国家では危機が発生してもそれほど深刻にはならない。そのため国民の多くが危機を見ている筈なのに、現在の豊かな生活をそのままの状態で維持しようとし続けるのだ。これは問題を先送りにしているだけなのであって、問題を先送りにすればするほど時間を無駄にしてしまい、気付いた時に問題は解決不能なまでに悪化し、時間を失ってしまったためにその問題を解決できる時間がなくなってしまうのだ。
現在の日本でも危機は起こっている。
「日本政府の借金は既に1000兆円を超えたのである」
「福島の原発事故は未だ収束せず、汚染水は漏れ続けているのである」
「ロシア、中国、北朝鮮が核ミサイルを持ち、日本はその射程圏内に入っている」
こういう危機があるというのに、日本政府はリストラをしないどころか逆に増税をしようとし、福島の原発事故が収束していないのに国民は原子力発電所が発電した電気で生活しているし、国家の安全保障は既に危機に瀕しているというのに昭和憲法を改正せず、それどころか昭和憲法があれば平和で居続けることができると非合理主義的な態度を取っているのである。
では問題を先送りして一体何をやっているのかといえば、それは何もやっていないのだ。反対意見を言って来る人たちの意見を無闇に聞き入れてならないのは、結局何もやらなくなってしまうからなのである。何もしないことで、問題解決能力が失われて行き、いざ問題に直面しても問題を解決することができなくなってしまうのである。
このことは、戦後首尾一貫して反対を主張し続けてきた日本社会党や日本共産党に問題解決能力がなくなってしまったことを見ても、この事態の深刻さが解る。そのくせ反対を主張しているから、未だに多少の支持者たちを獲得しているのである。
何事も早い段階で処理していれば、簡単に解決できるものなのである。それなのに問題を先送りし、出来るけど敢えてやらないという愚かな選択肢を取ってしまったために、気がついてみれば命取りになってしまい、国家の滅亡を止めることができなくなってしまうのだ。
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